004 マルボロ004:マルボロ真新しいマルボロの赤い箱から煙草を1本取り出すと待ち合わせのファーストフードの店内で亜依は恐る恐る火をつけ吸い込んだ。 「苦い・・・全然美味しくない。」 そう言うと亜依は火をつけたばかりのマルボロを灰皿の上に押しつけた。 「淳兄ちゃんは何でこんな物美味しいっていうのかしら・・・?」 マルボロの箱を手に取り亜依はじーっと見つめてみる。 ”淳兄ちゃん”というのは亜依の7つ年上の彼氏で隣の家に住んでいる幼馴染だ。 生まれてからずーっと一緒なのでもう20年の付き合いになる。 亜依は小さい頃から”淳兄ちゃん”が大好きで将来は”淳兄ちゃん”のお嫁さんになるのが夢だった。 なので亜依は高校生になった時自分から告白した。 ”淳兄ちゃん”は驚いていたがマルボロを箱から出しゆっくりと1本吸うと 「いいよ」 と一言亜依に言ってくれた。 亜依はその言葉を聞くと安心と嬉しさで涙が溢れて”淳兄ちゃん”を慌てさせた。 それから4年たち亜依は二十歳になった記念に、といつも”淳兄ちゃん”が美味しそうに吸っている煙草に挑戦してみたのだったが。 亜依の感覚が変なのか”淳兄ちゃん”が言ったのとは全く反対でそのマルボロは美味しくなかった。 口の中にピリピリとした苦さが残るだけだった。 「うそつき」 亜依はぽつりとつぶやくとマルボロの赤い箱をテーブルの上に置いた。 「何がうそつきなんだ?」 気がつくと目の前には”淳兄ちゃん”が立っていた。 ”淳兄ちゃん”は亜依の目の前の席に座るとテーブルに置かれたマルボロを手にし 「で、何がうそつきなんだ?」 と亜依に聞いた。 「だってうそつきでしょ?。淳兄ちゃんはいつも私が”煙草っておいしいの?”って聞くと”美味しいよ”って言ったのに、さっき吸ってみたら全然美味しくなかったよ。口の中がピリピリするだけじゃない。」 そういうと亜依はわざと不機嫌な表情を見せた。 「へー、吸ってみたんだ。亜依もやっと大人の仲間入りだな」 しかし”淳兄ちゃん”はそれに動じることなく手に持ったマルボロを見つめそこから1本取り出すと、亜依の目の前で美味しそうに吸ってみせた。 亜依はそんな”淳兄ちゃん”の態度を見て本当に不機嫌になった。 ”いつも子供扱いなんだから!私だって今日から二十歳。立派な大人なのに・・・” 亜依は黙って”淳兄ちゃん”をじっと見つめた。 すると”淳兄ちゃん”は 「煙草なんて吸わないほうが体にいいんだぞ。亜依はきっと煙草が合わない体なんだよ。これで長生きできるぞ。」 と笑いながら亜依の頭をなでた。どうも”淳兄ちゃん”は亜依を子供扱いしたいようだ。 亜依は頭にのせられた手を掴んで払いのけると 「私だって今日で二十歳なんだからね!もう子供扱いしないで!!」 と”淳兄ちゃん”へ怒ってみせた。 ”淳兄ちゃん”はいつもと様子の違う亜依に優しく微笑むと 「わかってるよ。だからこれ、誕生日プレゼント」 そう言って薄いブルーの小さな紙の手提げ袋を亜依に差し出した。 亜依はその袋をじっと見つめると 「誕生日プレゼント?」 と”淳兄ちゃん”に聞き返した。 「そう、誕生日プレゼント。亜依が二十歳になったらこれをあげようとずっと思ってたんだ。」 そう言うと”淳兄ちゃん”亜依をじっと見つめた。 「開けていい?」 亜依は”淳兄ちゃん”を覗きこむようにして聞くと 「どうぞ」 という返事が返ってきた。亜依はそおっと袋を覗きこみ中身を見てみるとその中にはリボンのかけてある小さな箱が入っていた。 亜依は心の中で”まさか”と少しドキドキしながらその小さな箱に手をのばした。 小さな箱を手に取ると亜依は暫くその箱をじっと見つめてみた。 そして”よし”と心の中で呟くとゆっくりその箱のリボンをほどき中身を確認してみた。 中身は亜依が思っていた通りのものだった。そして1番欲しかったものだ。 箱の中には銀色に光る指輪が入っていたのだった。 指輪をとりだし亜依はそっと自分の左手の薬指にはめてみる。 サイズはぴったりだった。 ”指輪のサイズなんか聞かれた事ないのに何でわかったんだろう”亜依はその指にはめた指輪を見つめながらそう思った。 「ありがとう。1番欲しかったものだったよ」 亜依は”淳兄ちゃん”へ今までで1番の笑顔で笑いかけた。 ”淳兄ちゃん”はちょっと照れくさそうに 「まあ、そういうことだから。近いうちに叔父さんと叔母さんにも挨拶にいくから、亜依もそのつもりでいてくれよ」 と言った。 二十歳の誕生日。マルボロは美味しくなかったけど、この日亜依は1番欲しかった物を手に入れた。 それは”淳兄ちゃん”のお嫁さんにしてもらうという約束。 亜依は”誕生日になるたびマルボロの味とこの日のことを思い出すのかな?”と思い笑みがこぼれた。 ”淳兄ちゃんのお嫁さん”という亜依の夢が実現する日もそう遠くないだろう。 ジャンル別一覧
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